世界が変わる その3
2014年09月24日
河野嘉恵 at 08:37 | Comments(0) | 可能性を信じる
「世界が変わるその1」
「世界が変わるその2」
続きです。
最初に変化が現れたのは、あーちゃんのほうではなくて、まこちゃんのほうでした。
それまでまこちゃんは、執拗にあーちゃんに髪の毛を掴まれていたため、あーちゃんに対して恐怖心を持っていました。
あーちゃんが近くに来ようとすると、さっと私の後ろの隠れたり、「いやあ!」と叫んで泣き出したりと、とにかくいつも怯えていました。
でも
私とあーちゃんのやり取りを何度も聴いていたまこちゃんは、次第にあーちゃんに興味を持ち始めました。
「あーちゃんってちっちゃくてかわいいね」とにこにこしたり、あーちゃんのために、椅子を運んで「ここ座っていいよ」とお世話をしたり。
当のあーちゃんは相変わらず無表情で、まこちゃんと目も合わせていませんでしたが、まこちゃんはお構いなしに、にこにこしています。
そんな状態が続いた、ある日のこと。
最初に発見したのは、隣のクラスの先生でした。
「かえみ先生!あれ見て!」
その先生の指さすほうを見ると、そこには驚きの光景が広がっていました。
日の当たるベランダには、まこちゃんとあーちゃんの二人の姿。
あーちゃんは、まこちゃんに膝枕をしてもらってコロンと横になっていました。
気のせいか、ほんの少し緊張しているように見えるあーちゃん。
まこちゃんは、そんなあーちゃんが可愛くて仕方ないという表情で嬉しそうに髪を撫でています。
その日
あーちゃんは保育園で初めて友達ができたのです。
**********
このあと、二人は大親友になりました。
そういえばあーちゃん、私の言うことは聞こえないふりしても、まこちゃんの言うことはよく聞いていたな(ノ∀`)
当時は、心理学みたいなことは全く学んでなかったので、本当にただただ感じたままにやっていたことだけれど、自分の心ひとつで目の前の世界がガラッと変わったその感動だけはずっと覚えていました。
そしてこの経験が、実はその後、支援センターに配属になった時に、大きく役立つことになったのです。
私は2年間、保育園の中にある子育て支援センターに配属になったことがありました。
(子育て支援センターとは、保育園・幼稚園に入園する前の親子が遊びに来て、交流したり育児相談したりする場所のことです)
ある日のこと
2歳の女の子のお母さんであるAさんが私にこう言いました。
「かえみ先生・・・ちょっと先生の耳に入れておきたい話があるんです」
「?なんでしょう?」
「ほら・・・あそこの角にいるBくんとそのお母さんなんですけどね。あの親子、この辺の遊び場じゃ有名なんです。Bくんは突然暴力をふるったりしてくることが多いんですけど、Bくんのお母さんは自分の子が暴力をふるっても、何も言わないで、知らん顔していることが多いんです。だからそのことで困っているお母さんたちも多くて・・・。先生、ちょっと気を付けて見ていただけますか?」
「そうだったんですか・・・。わかりました。様子を見ていますね」
「お願いします。もし何かあったら、先生からきちんと言っていただけるとありがたいんですけど」
「そうですね。ただ私自身、まだBさんとの信頼関係ができていないので、お話しできるような関係づくりができるようにしていきますね」
Bくん親子は、その時は支援センターに訪れるのは、まだ2~3回目。
しかも前回来たのは、1か月以上前のことでした。
そんな状態だったので、まず私はBくんとお母さんの様子を観察してみました。
受付が済むと、Bくんはすぐに室内を自由に動き始め、あちこちのおもちゃに興味を持ち始めます。
お母さんはというと離れた読書コーナーで、育児書や料理雑誌を読み始め、Bくんの様子には目もくれません。
でも
お母さんが読んでいる本に集中していないのがすぐにわかりました。
見たくない
そんなお母さんの心の声が聞こえてくるようでした。
一方のBくんは、自由に飛び回りますが、必ずと言っていいほど他の子の遊んでいる様子を、じーーーっと見つめて、ふらふら~とその子に寄っていきます。
そして、同じようなおもちゃで遊び始めるものの、その子のおもちゃを取り上げ始めます。
私は仲裁をしながら、B君の様子を見守ってみました。
しばらくすると、おもちゃに飽きて、手持無沙汰になったBくん。
私はBくんを粘土遊びに誘い、一緒に机のあるスペースに座りながら遊び始めました。
するとお母さんがその様子に気が付き、私たちのそばへ寄ってきました。
私は「Bくん、粘土遊びが好きなんですか?」とお母さんに話しかけ、会話を始めました。
ふと気が付くと
Bさん親子のことを報告してきたAさんも近くに寄ってきて、なんとなく私たちの会話に聞き耳を立てている様子です。
私はそれには気づかないふりをしながら、Bさんと会話を続けました。
するとBさんはひとしきり会話をした後に「先生・・・・この子のことで相談してもいいですか?」と切り出してきたのです。
Bくんは、こういうお友達がいる場所へ行くと、すぐに友達のところへ行って、おもちゃを奪ったり、手を出したりしてトラブルを起こすこと。
言葉がうまく出てこないから、「貸して」や「ごめんね」「ありがとう」が言えず、気まずい空気になること。
何度叱っても、手を出すことをやめてくれないことなど話してくれました。
「だから本当はこういう子育て支援センターみたいなところには、来たくないんです。でも、一人っ子だし、こういうところへ連れてこないと、この子のためにならないと思って・・・」
そう言うとBさんは俯いて黙り込んでしまいました。
ああ・・・とても苦しかっただろうに・・・。
Bさんのこれまでの葛藤を思うと、とても胸が痛みました。
「Bさん、ずっとBくんのために頑張ってきたんですね」
「・・・・」
「私ね、実はBくんの様子を見ていたんですよ。そしたらね、Bくんはお友達にちょっかいを出す前に必ず、その子のことを観察しているんです。その表情がね、すごく楽しそうなんですよ」
「え?」
「これは私の推測なんですけど、Bくんはお友達の楽しそうな様子を見て、それを一緒に共有したかったんじゃないかなぁ。自分も一緒にやりたいって。」
「そうなんですか?」
「私はそう思いました。もしおもちゃだけに興味があるのなら、一直線にそのおもちゃに飛びつくけど、おもちゃだけじゃなくてお友達の表情も嬉しそうに見ていたんですよ。きっとお友達に興味があるんじゃないでしょうか。でもBくんは、仲良くなる方法がわからないんじゃないかな。だとしたら、それを教えてあげればいいんだと思うんです」
Bさんは驚いた表情で、私の顔を見つめていました。
「そんな・・・・そんなこと・・・今まで誰も教えてくれなかった・・・。誰に相談しても、今の時期だけだよとか、そのうち手は出さなくなるよとか・・・」
「私ね、Bくんがお友達の楽しそうな様子に自分も楽しそうにしていたってことは、きっと根っこにお友達が大好きっていう想いがあると思うんです。きっと、Bくんはお友達を大事にできる力があるお子さんだと思いますよ」
いつの間にかBさんの目から涙がこぼれていました。
自分の子が、他の子を傷つけるのを見たくなかった。
他のお母さんたちの視線が痛かった。
自分たち親子が迷惑な存在なのは百も承知だった。
わかっていたからこそ、悲しくてみじめでこれ以上謝ることができなかった。
だけどこの子のために、大勢の子どもが集まる場所に何とか自分を奮い立たせながら来ていた。
そんな状況でも
それでも「いつか」を信じていたBさん。
今までどれだけ苦しくて長いトンネルに入り込んでしまったんだろう。
でも
本当の答えは、「いつか」ではなく、自分の中にあるんだ。
その後、Bくん親子が帰ろうとした時だった。
Aさん親子が、Bくん親子に近づいてきた。
そしてAさんは、Aちゃんに「ほら、Bくんお家に帰るんだって。バイバイしてタッチしようか」と声をかけたのだ。
Aちゃんは素直にBくんのところへ行って、バイバイをする。
Bくんも満面の笑顔でバイバイし、ふたりはハイタッチをしながら、そのままピョンピョン飛び跳ね、げらげら笑いだしたのだ。
その様子を、AさんもBさんも嬉しそうに見守り、その場に温かい空気が流れた。
答えは誰もが自分の中にある。
あーちゃんもまこちゃんも
Aさん親子も、Bさん親子も
みんなの中には、愛があり、優しさに溢れていた。
それを信じるだけでいい。
もしこの子に愛があるとしたなら
もしこの子に可能性があるとしたら
目の前の「問題行動」はどんな意味を持つのだろう?
そして
もし自分に愛があるとしたなら
もし自分が素晴らしいのであれば
自分を苦しめるこの感情はどんな意味を持つのだろう?
大丈夫。
きっと世界は変わるはず。
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