気づけなかった、伝えたかった
2014年08月29日
河野嘉恵 at 18:32 | Comments(0) | 頑張り屋さんのあなたへ
仕事で文章を書きながら、ふと昔・・・そう、あれはまだ保育士になって2年目の頃のこと。
当時担任していた、たいちゃんという男の子のことを思いだした。
たいちゃんは頭のいい子だった。
周りをよく見て、行動できるし、自分のこともハキハキ話すことができる。
優しいところもあるし、とっても活動的。
でもたいちゃんは、クラスに慣れると、状況をわかっていながらわざと悪さをするようになった。
完全なる確信犯。
注意されても叱られても、その時は大泣きするけど、再び悪さを繰り返す毎日。
なぜだろう?
こんなに物事をわかっている子が、なぜ同じ過ちを何度も繰り返すんだろう?
当時の私は不思議で仕方なかった。
でもある時原因がわかった。
たいちゃんは、母子家庭で一人っ子。
お母さんは当時20代。
「先生、この子が悪さをしたら、ビシッと叱ってやってください」と言うくらい、真面目でしっかり者だった。
たいちゃんを一人前にしっかりと育てたい気持ちがひしひしと伝わってきた。
・・・そう。
お母さんはたいちゃんにとても厳しかったのだ。
当時の私は思った。
そうか。たいちゃんはお母さんに甘えられなくて、そのうっ憤を保育園で晴らしていたのだと。
きっと本当はお母さんに甘えたかったに違いない。
そうとなれば、言いづらいけど現状をお母さんに把握してもらう必要がある。
私は懇談でお母さんに、たいちゃんの保育園での様子を伝えた。
お母さんはショックを受けていた。
「家ではそんな姿、見たことないんです。本当によく言うこと聞いてくれるし、お手伝いもしてくれるし・・・。」
それを聞きながら、私はやっぱりなぁと思った。
たいちゃんは家では本当の自分をさらけ出せないんだ。
普通子どもって、家ではわがままだけど、外ではそれなりにいいところを見せようと頑張るもの。
でもたいちゃんはそれができないんだ。
これ問題だよ。と。
この時は、保育園でも様子を見守りますね~おうちでは、ゆっくり甘える時間も作ってくださいね~的な流れになったように思う。
お母さんは神妙な表情で受け止め、その後ちょくちょく相談したりしてくれた。
表面上は、なんのトラブルもなかったけれど・・・・でも。
今だったらもっと違う伝え方をしていた。
そもそも
家ではお利口にして、保育園で悪さをすること・・・・今の私が担任なら、それを問題にはしない。
このたいちゃんの姿は、決して「問題」ではなく、子どもとして「当然の姿」だったんだと今ならよくわかるのだ。
それを踏まえたうえで、お母さんにきっとこう伝えたと思う。
きっとお母さんを守りたかったんだね。
お母さんのことが大好きだから。
保育園で何度注意されても、叱られても言うことを聞かないたいちゃん。
でもお家では絶対それをしなかった。
それはきっと厳しさのレベルが違うといった問題じゃない。
だって保育園で叱られるというのは、子どもにとって大勢の前で恥をかくこと。
たいちゃんほど周りの空気を読む子なら、相当きつかったはず。
たいちゃんは、家ではお母さんを困らせないと決めていたんだと、今なら思えるのだ。
お母さんに我慢させられていたのではなく、たいちゃん自身が決めていたんだ。
もしかしたら反抗したら愛されないかもという恐れはあったかもしれない。
でも仮にそうだとしても、間違いなく根っこにはお母さんが大好きという想いがあったはず。
お母さんの笑顔が見たくて、お母さんを喜ばせたかったはず。
だから保育園では、お友達が悪ふざけをしているのを見て、普段やれない悪さを自分もしたくなったんだ。
ちょっといい子ちゃんでいることが疲れちゃったんだよね。
お母さんのナイト役は、やっぱり大変だもの。
だからタイムマシンに乗って、当時のお母さんに伝えたい。
お母さん、たいちゃんは大丈夫。
だってこんなに心優しい子に育っているもの。
きっとたいちゃんに対して、こんなお母さんで申し訳ないって思うかもしれない。
けれど、そんなお母さんだからこそ、たいちゃんは大好きなんだよ。
だからたいちゃんの愛情をしっかり受け取って、ありがとうって伝えてね。
そしてちゃんとした親になろうと、辛い顔で頑張ることよりも、笑顔でたいちゃんと過ごすことを大切にしてね。
もっとお母さんはわがままに、自分を大事にしていいんだよ。
そしたらきっとたいちゃんも、お母さんの笑顔を守るお役目を手放して、素直に自分を出せるようになるからね。
保育園では、誰かを傷つけたときは注意するけど、時には片目つぶって見逃すよ(笑)
たいちゃんには息抜きが必要だからね♪
伝えられなかったこの言葉
当時のお母さんには届かなかったけれど
今子育てに悩むお母さんたちに
そして今似たような問題に悩む先生たちに届きますように。